なおちです。今回は奥田英朗の「サウスバウンド」をちからのかぎり紹介します。
実は読むのは3回目です。個人的にかなりおすすめです。
- 概要
- 書評
1. 概要
父は国家権力が大嫌い。どうやらその筋では有名な元過激派で、学校なんて行くなといったり、担任の先生にからんだり、とにかくムチャクチャだ。そんな父が突然、沖縄・西表島に移住すると飯田市、その先でも大騒動に。父はやっぱり変人なのか?それとも勇者?家族の絆、仲間の絆を描いた傑作長編。
裏表紙
著者:奥田英朗
出版社:講談社文庫
ジャンル:ホームドラマ小説
文量:665p
2. 書評
※作品の設定や構成など、一部ネタバレを含みます。
読みやすさ:★★★☆☆
エモさ :★★★★★
後味 :★★★★★
- 新社会人
- 閉塞感を感じている人
- 親子
東京に住む小学六年生の主人公、上原二郎の視点で描かれる物語。
元過激派の革命家であった父:上原一郎を軸にパワフルに駆け巡るストーリー。
○読みやすさ:★★★☆☆
終始、主人公二郎の視点で物語が展開する。
多角的な視点が必要無い点や、家族を支点として人間関係が展開される点は読みやすい。
一方で、比較的文量が多いこと、また一郎の絡む話においては、
学生運動時代の描写、言葉が散りばめられていることから
読書に慣れていない、あるいは当時を知らない、言葉に慣れていない若い世代には多少の読みにくさがありそう。
○エモさ:★★★★★
奥田英朗らしい、パワフルなキャラクターが周囲を巻き込んで、ごく普通の日常を引っ掻き回すストーリー。
伊良部先生が暴れまわる「イン・ザ・プール」「空中ブランコ」「町長選挙」のような短編小説もそうだが、
随所に笑えるシーンが存在する。
面白みの一つは、環境とともに移り変わる心情の描写だ。
東京に住む二郎は、社会の常識を振りかざして接触してくる人物に対して、真っ向から敵対する一郎に辟易していた。ところが沖縄に移住した後には、尊敬の念を抱くようになった。など、
東京の閉塞感と、沖縄の開放感と連動して、人の心情にも変化が起きる様を的確に表現している。
また、騒動に巻き込まれる中で、家族の絆を描いている点も、共感しやすい。
そして何より、一郎のキャラクターだからこそ刺さる強いメッセージ。
おとうさんを見習うな。お父さんは少し極端だからな。
けれど卑怯な大人にだけはなるな。立場で生きるような大人にはなるな
本文より
これはちがうと思ったらとことん戦え。負けてもいいから戦え。
人とちがってもいい。孤独を恐れるな。理解者は必ずいる。
本文より
上記のようなメッセージは、誰しもが1度は聞いたことがあるはずだ。
だが、どれだけ真剣に向き合えているだろうか。それはきっとこの言葉を発した人物が誰かに依存するのではないか。
そういう意味では、ぜひ本作品を読んでほしい。一郎ほどふさわしい人物はいない。
○後味:★★★★★
ともに生活をしながらも希薄であった家族関係が、別れながありながらも固い絆で結ばれるエンド。
個人の自立や、精神的な繋がりを感じられる、非常にスッキリとする後味。
○総合評価:★★★★★
傑作。
親としてはこどもの教育観点でも絶対損しない作品。
また、新社会人や閉塞感を感じている人にもおすすめ。
閉塞感の強い近年では特に読んでほしい。
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